大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和55年(行ウ)89号 判決

豊中市新千里東町二丁目四メゾン千里D七―四〇一

原告

田中星太郎

訴訟代理人弁護士

清水正憲

池田市城南二丁目一番八号

被告

豊能税務署長

戸谷晴治

指定代理人検事

一志泰滋

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告が原告に対し昭和五四年二月一六日付でした原告の昭和五一年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下本件更正処分及び本件賦課決定処分といい、あわせて本件処分という)を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告は、昭和五一年度分の所得税について、別表(一)の確定申告欄及び修正申告欄に記載のとおり申告したところ、被告は、昭和五四年二月一六日付で同表の更正処分等欄記載のとおりの内容の本件更正処分及び本件賦課決定処分をし、同月一八日原告に通知した。

原告は、同年四月一六日、異議の申立をしたが、被告は、同年六月二七日付で異議申立棄却の決定をし、同年七月一五日原告に送達した。

そこで、原告は、同年八月一〇日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、昭和五五年六月二五日付で審査請求を棄却する旨の裁決をし、同年七月四日原告に送達した。

(二)  しかし、本件更正処分及び本件賦課決定処分には、原告の昭和五一年分の所得金額を過大に認定した違法がある。

(三)  結論

本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の主張は争う。

三  被告の主張

(一)  原告の昭和五一年分の所得金額は次のとおりであるから、本件処分は適法である。

(1) 総所得金額 一、一〇七万二、八四七円

内訳不動産所得金額 四七〇万六、八一四円

配当所得金額 七万八、〇〇〇円

給与所得金額 六二八万八、〇三三円

(2) 分離譲渡所得金額(長期譲渡所得金額)

九、七一六万八、一四六円

(3) 所得控除額 一七七万九、四九〇円

(二)  分離譲渡所得金額について

原告は、昭和五一年一二月一五日、訴外上野観光開発株式会社(以下上野観光という)との間で、原告所有の別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件土地(一)又は本件譲渡土地という)を上野観光所有の別紙物件目録(二)記載の土地(以下本件土地(二)又は本件取得土地という)と交換し、上野観光から交換差金を受領した。したがって、分離譲渡所得金額は次のとおり算出される。

(1) 総収入金額 一億〇、四〇五万五、二〇六円

内訳

本件取得土地の価額 九、七九五万五、二〇六円

交換差金 六一〇万円

(2) 取得費 五二〇万二、七六〇円

右(1)×〇・〇五により算出

(3) 譲渡に要した費用 六八万四、三〇〇円

(4) 特別控除額 一〇〇万円

(5) 譲渡所得金額(右の(1)-(2)-(3)-(4))

九、七一六万八、一四六円

なお、所得税法五八条一項、二項は、次の(ア)ないし(オ)の要件のすべてを満たすときに、「譲渡がなかったもの」として課税しない旨規定している。

(ア) 交換による譲渡資産及び取得資産の双方いずれもが、固定資産であり、かつ同種の資産であること。

(イ) 交換による譲渡資産は、その者が一年以上有していたものであること。

(ウ) 交換による取得資産は、交換の相手方が、その交換のために取得したものと認められるものではなく、かつ一年以上有していたものであること。

(エ) 交換により取得した資産を、譲渡した資産の譲渡の直前の用途と同一の用途に供していること。

(オ) 交換譲渡資産の価額と交換取得資産の価額との差額が、そのいずれか多い方の価額の一〇〇分の二〇以内であること。

しかるに、訴外平田千代は、本件土地(二)を、昭和五〇年一二月二三日付け売買により、訴外三菱自動車販売株式会社から取得し(ただし、そのうち2の土地は、昭和五一年一一月二四日付け分筆前の箕面市西坊島四八六番雑種地三一〇平方メートル、また3の土地は、昭和五一年一一月二四日付け分筆前の同市東坊島四八九番一雑種地一六八平方メートルとして取得)、昭和五一年四月八日所有権移転登記手続を了した後、右土地を一括して昭和五一年一〇月二五日付けで上野観光に売却したものである。

したがって、上野観光は、右(ウ)の要件を充足していないので、原告は、法五八条の適用が受けられない。

仮に、原告の交換の相手方が平田千代になるとしても、平田千代が右(ウ)の要件を充足していないことは、同様である。

また、本件土地(一)については、昭和五一年一〇月二九日付け、同年一一月一九日付け、同年一二月二八日付けで、原告から平田千代への所有権移転登記手続がなされており、一方、原告は、上野観光から取得した本件土地(二)を昭和五一年一二月二〇日ころ、既に訴外株式会社友建(以下友建という)に年額賃料二五万円で、賃貸しているから、右土地は同日以前に引渡しを受けていることが明らかである。したがって、原告が上野観光へ本件土地(一)を譲渡したことによる所得は、昭和五一年分に帰属する。

四  被告の主張に対する認否と原告の反論

(一)  被告の主張(一)について

同(1)、(3)の各事実は認め、同(2)は争う。

(二)  被告の主張(二)について

被告の主張(二)のうち、原告が昭和五一年一二月一五日の交換契約により、本件土地(一)を他に譲渡し、本件土地(二)を取得し、交換差金を受領したこと、したがって、総収入金額は同(1)のとおり、取得費は同(2)のとおり、譲渡に要した費用は同(3)のとおりであることは認めるが、その余は争う。

(三)  法五八条の適用について

原告は、本件土地(一)を、平田千代との間で、その所有する本件土地(二)と交換したものであって、上野観光と交換したものではない。

そして、平田千代は、本件土地(二)を、昭和五〇年一一月二一日以前に取得しており、仮に被告主張のとおり、本件土地(一)、(二)が交換譲渡された時を昭和五一年一二月一五日だとみても、平田千代は、本件土地(二)を交換以前一年以上所有していたことになる。

仮に、平田千代が本件土地(二)を取得したのが被告主張のとおり昭和五〇年一二月二三日だとしても、原告は、後記のとおり、本件交換が、早くとも昭和五二年五月一日以降に効力が生じ、その結果、原告が本件土地(二)を、平田千代が本件土地(一)を各取得したと主張するものであり、やはり平田千代は本件土地(二)を交換以前一年以上所有していたことになる。

このように、平田千代は、本件土地(二)を右交換前に一年以上の期間所有していたものであるし、原告は、本件土地(二)を本件土地(一)と同一用途に供している。したがって、原告の本件土地(一)の譲渡所得金額の計算にあっては、所得税法五八条が適用されて、本件土地(一)の譲渡がなかったものとみなされる。

(四)  譲渡所得の帰属年度について

本件交換契約の相手方が、上野観光であるか平田千代であるかは別にしても、右交換契約は、本件土地(二)について、市街化調整区域の指定が解除となることを停止条件として締結されたものである。そして、本件土地(二)が市街化調整区域でなくなったのは、昭和五二年一二月二六日であるから、権利確定主義の下においても、右条件成就以前には、本件土地(一)の譲渡の対価たる本件土地(二)及び交換差金六一〇万円を原告が取得したと評価すべきでない。

仮に、停止条件成就という一事のみにこだわらず、実質的、総合的に判断しても、原告において、本件土地(一)の明渡を完了し、本件土地(二)の所有権移転登記を取得し、その占有を完全に取得したのは昭和五二年五月ころであり、これより前に、本件土地(一)の譲渡があったとはとうてい考えられない(交換差金六一〇万円は、条件成就までは依然預り金のままである)。

すなわち、

昭和五二年二月末ころになって、本件土地(二)が市街化区域に編入される見通しがかなり明確になったため、原告は、本件土地(一)の賃借人友建に本件土地(二)への移転を早急に完了するよう要請するとともに、本件土地(二)について原告への所有権移転登記をするよう仲介者に指図し、その結果、友建は、同年五月までに本件土地(一)から本件土地(二)への移転を完了し、原告は同年五月四日付で登記を受けた。友建は、その後今日まで本件土地(二)を資材置場として、原告から賃借して利用している。

以上のとおり、本件土地(一)及び交換差金六一〇万円は、原告の昭和五一年分の譲渡所得に当たらない。

第三証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  課税処分の経緯について

請求原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の昭和五一年分の所得金額について

(一)  総所得金額

原告の総所得金額が一、一〇七万二、八四七円であり、所得控除額が一七七万九、四九〇円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  分離譲渡所得金額

1  原告が昭和五一年一二月一五日の交換契約により、本件土地(一)を他に譲渡し、本件土地(二)を取得し、交換差金を受領したこと、その結果、総収入金額、取得費、譲渡に要した費用が、被告の主張(二)の(1)ないし(3)に記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  右争いがない事実や、成立に争いがない乙第一ないし第四号証、同第七ないし第一四号証、同第一六ないし第一八号証、同第二五号証、証人平田千代の証言によって成立が認められる甲第三、第五号証、乙第五号証、証人矢谷泉の証言によって成立が認められる同第六号証、証人進戸政治の証言によって成立が認められる同第一九号証、証人矢谷泉(一部)、同平田千代、同進戸政治の各証言を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証人矢谷泉の証言の一部は採用できないし、他にこの認定に反する証拠はない。

(1) 平田千代は、本件土地(二)及び箕面市西坊島四八六番二(分筆後)、同市東坊島四八九番三(分筆後)(以下これらを土地(三)という)を、昭和五〇年一二月二三日付け売買により、三菱自動車販売株式会社から取得し(ただし、そのうち2の土地は、昭和五一年一一月二四日付け分筆前の箕面市西坊島四八六番雑種地三一〇平方メートル、また3の土地は、昭和五一年一一月二四日付け分筆前の同市東坊島四八九番一雑種地一六八平方メートルとして取得)、昭和五一年四月八日所有権移転登記手続をした。

(2) 平田千代は、本件土地(二)(土地(三)を含む)を、レストランをする目的で取得したものであるが、立地条件が十分でなく、手放す気になっていたところ、不動産仲介業者の紹介で上野観光から買取りの申込みがあり、これを承諾した。

(3) 平田千代は、昭和五一年一〇月二五日、上野観光に対し、代金一億三、〇三七万七、〇〇〇円で本件土地(二)(土地(三)を含む)を一括して売却し、その旨の売買契約書(乙第五号証)を取り交わしたが、その頃、上野観光の要請で、本件土地(一)と本件土地(二)(土地(三)を含む)とを交換する旨の交換契約証書(甲第三号証)も取り交わした。

(4) しかし、平田千代は、本件土地(一)を見たことも利用方法を考えたこともなく、本件土地(一)が、その後どのように処分されたかについて関心がなく、当初上野観光との間で約束した売買代金一億三、〇三七万七、〇〇〇円を手中にすることで一切終りであると考えていた。そして、平田千代は、交換に伴う本件土地(一)に関する不動産取得税や固定資産税を上野観光に支払わせ、他方、自らは昭和五一年分所得税確定申告書に本件土地(二)(土地(三)を含む)の譲渡価額一億三、〇三七万七、〇〇〇円として申告した。

(5) 上野観光は、訴外脇本商事株式会社(以下脇本商事という)に対する売買代金の一部に充当するため、昭和五一年一二月二〇日、平田千代から買い受けた物件のうち、土地(三)すなわち、箕面市西坊島四八六番雑種地三一〇平方メートルについては、昭和五一年一一月二四日付け分筆後の同所四八六番二雑種地一七八平方メートルを、また、同市東坊島四八九番一雑種地一六八平方メートルについては、昭和五一年一一月二四日付け分筆後の同所四八九番三雑種地一五一平方メートルを、合計三、八〇〇万円で脇本商事に譲渡し、昭和五二年一月一三日付けで所有権移転登記手続をした。

(6) 訴外株式会社大拓(以下大拓という)は、昭和五一年七月一〇日、上野観光から原告所有名義の本件土地(一)を代金一億五、五六六万七、四五〇円で買い受けた。

大拓は、その際、原告及び上野観光から、所有権移転登記手続は原告から直接大拓にするのではなく、一旦平田千代への交換を原因とする所有権移転登記手続を行い、平田千代から大拓に所有権移転登記手続を行うことの了承を求められ、承諾した。

(7) そして、本件土地(一)については、昭和五一年一〇月二五日及び同年一二月一五日付け交換を登記原因として、原告から平田千代に、本件土地(二)については、同年一二月一五日付け交換を登記原因として、平田千代から原告に、それぞれ所有権移転登記が経由されている。

(8) 原告は、同年一二月一五日、交換差金六一〇万円を受領した。

3  以上認定の事実によると、原告と平田千代との間には、本件土地(一)と本件土地(二)との交換契約書が存在し、これに符合する所有権移転登記がそれぞれ経由されているけれども、この交換は、その実体がなく単なる形式にすぎない。

すなわち、

上野観光は、平田千代から、本件土地(二)と土地(三)とを買い受けてその所有権を取得し、土地(三)を脇本商事に譲渡した。他方上野観光は、原告所有の本件土地(一)を大拓に売却するため、原告所有の本件土地(一)と上野観光所有の本件土地(二)とを交換し、原告に対し、その交換の差金として、金六一〇万円を支払った。これが、本件事案の真相である。

このようにみてくると、原告が本件土地(一)を本件土地(二)と交換した相手は上野観光であったというほかはない。そうして、原告は、原告と平田千代との間で本件土地(一)と本件土地(二)との交換が真実あったことを前提として、本件処分が違法であると主張しているが、原告のこの主張は、その前提を欠いている点で失当であることは、いうまでもない。

そうすると、原告が本件土地(一)を譲渡した際に取得した本件土地(二)は、交換の相手方である上野観光が一年以上所有していたものでないことが前記認定の事実によって明らかであるから、本件には所得税法五八条の適用がないことに帰着する。

4  次に、前記争いがない事実及び前記認定の事実や前掲乙第九ないし第一四号証、成立に争いがない同第一五、第二一号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第二〇、第二二号証、証人進戸政治、同矢谷泉(一部)の各証言を総合すると、次の事実が認められ、この認定に反する証人矢谷泉の証言の一部は採用できないし、他にこの認定の妨げになる証拠はない。

(1) 原告と上野観光との間の本件土地(一)と本件土地(二)との交換契約は、昭和五一年一二月一五日に締結され、同日、上野観光は原告に対し交換差金六一〇万円を支払った。

(2) 右交換契約には、本件土地(二)が市街化調整区域の指定を解除されることを停止条件とする旨の附款がついていたが、右一二月の時点で、原告は、本件土地(二)につき登記手続に必要な書類を全部受領するとともに、本件土地について登記手続に必要な書類も全部上野観光に交付していた(本件土地(一)については一二月中に既に一旦平田千代名義に所有権移転登記が経由された)。

(3) 原告は、昭和五一年一二月末までには、上野観光から本件土地(二)の引渡しを受け、これを友建に資材置場として使用する目的で賃貸した。

右事実によると、原告は昭和五一年一二月一五日上野観光との間で交換契約を締結し、同日交換差金を受領し、同年中には、相互に登記手続に要する書類の交付も終え、土地の引渡しも完了したことが明らかであるから、原告が本件土地(一)を譲渡したことによる所得は、昭和五一年分に帰属するものというべきである。

5  まとめ

原告の分離譲渡所得金額に関する(1)総収入金額、(2)取得費、(3)譲渡に要した費用が、いずれも被告の主張(二)(1)ないし(3)の各金額であることは、当事者間に争いがない。

また、原告の本件譲渡所得は、租税特別措置法三一条(長期譲渡所得の課税の特例)の規定によるべきものと解されるから、特別控除額は一〇〇万円である。

したがって、分離譲渡所得金額は、九、七一六万八、一四六円と算出される。そうすると、原告の昭和五一年分の分離譲渡所得金額は、被告主張のとおりの金額になる。

三  本件処分の適法性について

原告の昭和五一年分の総所得金額と所得控除額が被告主張の額であることは、当事者間に争いがなく、分離譲渡所得金額が被告主張の額であることは、前に説示した。そこで、これらによって原告の昭和五一年分の課税総所得金額及び所得税額を計算すると、別表(一)のとおり被告の本件更正処分に掲記された額となることが明らかである。したがって、本件処分は、適法であり、本件処分には、原告が主張する違法はない。

四  むすび

原告の本件請求は、理由がないから棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 孕石孟則 裁判官 浅香紀久雄)

別表(一)

〈省略〉

物件目録(一)

1 吹田市山手町四丁目一九二三番一

宅地 四九七・三七平方メートル

2 同所同番二

公衆用道路 六〇平方メートル

3 同所同番三

宅地 四九七・一八平方メートル

4 同所同番四

宅地 四五二・九七平方メートル

5 同所同番五

宅地 四四・一五平方メートル

6 同所同番六

公衆道路 一〇六平方メートル

物件目録(二)

1 箕面市西坊島四八五番二

雑種地 四三〇平方メートル

2 同所四八六番一

雑種地 一三一平方メートル

3 同市東坊島四八九番一

雑種地 一六平方メートル

4 同市今宮六六番一

雑種地 四一七平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例